大阪阿倍野 ゲストハウスおどり 2012年

2012年 大阪のゲストハウス「おどり」さんのお庭を作らせていただきました。

少し長いですが、このお庭を作ることになったきっかけと、作業のことを書きたいと思います。
尚、残念ながら既に「おどり」は建物ごと取り壊され今はありません。マンションになってしまったようです。
建物は築100年を超える古民家で、中には凝った彫り物のランマなんかもあり、大変立派な造りでした。自分が手がけた庭ということだけではなく、こういった歴史のある建造物が無くなっていくのは本当に残念に思います。

 

おどりの女将である田中亜由美さん(以下亜由美さん)と出会ったのは、京都への一人旅がきっかけ。亜由美さんは当時、その時に宿泊したゲストハウスでスタッフをされていました。
当時はまだゲストハウスはそれほど多くなく、民泊などもない時代でしたが、私は一人で旅に出る時は、よくユースホステルやゲストハウスを利用していました。

ゲストハウスでは、宿泊者同士やお店の人、はたまたその知人や近隣の人なんかも訪れ、気軽に話しができたり、情報交換はもちろん、一緒に飲んだりと、いろんな交流が生まれるので、あえて一人になりたい旅でない限りはこのような宿をチョイスしていました。

そのゲストハウスには二日間泊まりましたが、初日からそこの女将さんと大将が飲みましょう!と誘ってくれて、他の宿泊者も含めてみんなでワイワイ楽しく過ごしました。
そして2日目は朝から猛烈な雨、せっかく来たけどちょっと宿を出るのがおっくうな程の天気。私は午前中、その時にいたスタッフの亜由美さんと話をしながら宿で過ごすことにしました。

その宿は西陣の辺りにあり、昔の町屋を改装した素敵なところでした。
建物の中央には坪庭があり、それを取り囲むように回り廊下がある。雨の日にそこで過ごす時間もまたオツなもので、何も観光に出るだけが京都の過ごし方ではありません。
午前中、雨の坪庭を見ながら町屋でゆっくり過ごす時間はとても贅沢に感じられました。

そこで亜由美さんから衝撃の告白。
「もうすぐここを辞めて大阪にゲストハウスを開くつもりです。その時にお庭を作ってもらえませんか?」
あまりの急な話に嬉しかったというよりは、とにかくびっくりしました。
私はこの頃独立したてで、飲むと関係のない場でもいつも庭談義をする悪い癖がありました笑。きっと前の日も飲んだ勢いで相当庭について語ったのだと思います。
そもそも庭を作ろうにも誰に頼んで良いかわかりませんし、たまたま訪れた庭師の熱い庭談義を聞いて、頼もうと思ってくれたのかもしれません笑。

そして京都で二日間を過ごし、その後は当てもなく九州方面に向かう予定でしたが、確か悪天候で断念して東京へ帰ったのを覚えています。
しばらくは京都での事は思い出す間もなく働き詰めでしたが、ある日亜由美さんから電話がありました。
「今度東京へ行くので、例の打ち合わせさせて下さい!」
「え?本当だったんですか⁈」ついそんな言葉が出てしまったかと思います。

そして都内で会い打ち合わせをし、秋頃、大阪の現地を見に行く約束をしました。

いざ現地へ着いて、
はじめに目に飛び込んできたのは大きな山灯籠と塀越しに見えるお隣の蔵、そしてお隣の塀に掛かるうねうねと曲がった瓦。
それを見た時、何となく洗練されたイメージよりは、あえて野暮ったさも感じる柔らかい庭にしたいと漠然と思いました。
「ここへはきっと外人さんも沢山泊まりに来るだろう、日本に来た!と思える、みんなに愛されるような、ほっとできる空間にしよう。」そう思ったのを覚えています。
壁を土壁と杉皮の市松にしたのは、お茶室の躙口の絵から連想しました。

そして現地を見ながら、すぐに頭に浮かんだ絵を下手なラフ画で描いてみせ、ざっくりとした予算もその場で大体出したかと思います。

見積もり前に現場を見れたのはそれが最初で最後、メインの庭になる中庭の地面があまりにも高かったので少しだけ土を掘ったりしましたが、まだ不動産屋さんとの契約前だということもあり、現調はその程度で終わりました。

東京へ戻り図面を起こし、見積もりを作成し、年明けにもう一度大阪へ。その時は亜由美さんのご家族もいらしていて大勢の前で緊張しながらプレゼンしたのを覚えています。
そしてOKを頂いて、2月からいざ乗り込むことに!!

冬で東京から車で向かうのは困難そうだったため、必要なものは全て現地へ送りました。
そして以前勤めていた頃の同僚が岐阜へ戻り、友人と二人で造園業を営んでいたので、現場も手伝ってもらうと共に、車や送れないものはその彼らに頼むことになりました。

現地へは約一ヶ月ほど泊まり込み、3/3のオープンに向けて作業を進めました。
内装の方は亜由美さんや亜由美さんの友達、それに近所のゲストハウスのスタッフの方々も手伝いに来て、自分たちで行っていました。
現場はいつもわいわいと賑やかで活気があり、こちらも楽しく作業させていただきました。

作業後は皆んなで一緒に銭湯へ行ったり、ご飯を作って食べたり、飲みに行ったりと、何だか学生のような一ヶ月間の共同生活を送れた事もとても良い思い出です。
中でも毎朝亜由美さんが作ってくれたオニギリとお昼のラーメン!それと馴染みになった駅の近くの定食屋さんやたこ焼きやさん、美味しかったですねー、忘れません!

 

庭づくりはリビングから見えるメインの中庭の製作からスタート。
盛り上がった土の中にとにかく沢山の石が埋められており、先ずはその石を掘り出すことから始めました。
因みにこの庭の中で使った石は全て現地で掘り出したものです。
石を大体掘り出したところで、次は床作り(とこ、と読みます)、全体の地形をざっくりと形造ります。
そして大きな山灯籠を玄関から部屋へと続く廊下から見えるように移設しました(土に竿の半分くらい埋まっていたので、正直こんなに大きいとは思いませんでした!)。
建物に入ってどーんと目に飛び込んでくる山灯籠、このお庭の顔になりました。

中庭が大体完成に近づいたところで、次は元々物置だった場所に坪庭を作ります。
この坪庭は、ある一室からのみ見ることができる庭になっています。逆にいうと工事前はその窓を開けるとコンクリートの土間と物置が見えるだけという殺伐とした眺めでした。
まずブロックを積んで土留めをこしらえ、余計なものが見えないようにと、外部から部屋への侵入を防ぐために杉皮貼りの塀を作りました。

門から玄関までのアプローチは、手入れとちょっとした植栽のみで、元の雰囲気をそのまま残す事にしました。
その途中、裏の芝地へと続く通路に
竹を植えている場所があったので、竹を少し整理し、延段を作り、垣根で囲い、芝地へと続く「竹の小径」としました。

他にも長期滞在しているので、追加や思いつきで作業を進め、時にはご友人の皆さんの手も借りながら、無事完成させることができました。

独立したばかりでまだまだ経験の浅い私に、こんな大きな仕事をさせていただけたことに今でも本当に感謝しています。