渋谷区 I 邸 茶庭工事 2016年

お施主様とは知り合いの建築家さんのご紹介でお会いしました。
リビング前から茶室まで繋がる茶庭、それから仏間の前の坪庭をほぼ全面的に解体し、新しくしたいとのお話し。
お施主様はお茶の先生をしており、ご自宅にはお茶室があります。
住宅密集地という環境もあり、このお茶室や露地から駐車場や道路が見えるので落ちつかない、ということでした。

先ずは庭部分を垣根や樹木でなるべく遮蔽し、特に茶室前では静寂な雰囲気を味わっていただけるようにしたいと思いました。
そこで元々一重であった露地を二重露地とし、内露地を黒穂垣で遮蔽、さらに茶室前にも黒穂で袖垣を設けました。
黒穂垣は遮蔽の意味もありますが、元々広さのない露地を垣根で仕切ることにより、逆に広さや奥行き感を感じられる効果があります。そして竹ではなく黒穂を使うことで、より山居の佇まいや侘びた雰囲気を醸し出すことができるのではないか、と思いました。

蹲(つくばい)は、改装前は茶室から少し離れた場所にあったため、内露地の躙口(にじりぐち)の前に新たに設けました。
元々の蹲は赤松の下に織部燈籠と手水鉢が置かれてましたが、この赤松の幹肌と織部燈籠との相性がとても良い雰囲気だったので、灯籠はそのまま残すことにして、縁先蹲(えんさきつくばい)を設けることにしました。

縁先蹲とは雨で外の蹲が使えない時、縁側などの軒内から軒先に設置した手水鉢を使えるようにしたもの。

ちょうど仏間の前に使われていない立ち手水鉢があり、松の木のある付近の窓が住居から茶室へと繋がる廊下に面した吐き出しになっていたので、ここに立ち手水を移動し縁先蹲を作ることにしました。灯籠までは少し遠いけど、ここは立ち手水から松の木まで繋がる景色として山の風情的なものを演出できたら良いな、という思いで製作しました。
そして外露地にあたるリビング前の庭には大きなヤマモミジを植え、リビングの窓からも道路が気にならないようにしました。

最後に庭全体にスギゴケ、ハイゴケ、シノブゴケなどを日当たりに合わせて貼りましたが、もともと地苔があった場所であったためか、今では(作庭から7年)すっかり地ゴケに入れ替わりました。

写真は施工後すぐのものと、今年(2023年)の手入れの際に写したものと載せてみました。
7年も経つと経年なりの変化や風化も要所要所に見られますが、またそれが作りたてには無い趣を庭に与えています。
そして植物は成長し、石は庭に馴染み、お手入れに行くたびに新たな表情で私を迎えてくれます。

 

使用樹木 ヤマモミジ、マキ、ソヨゴ、シロモジ、クロモジ、ミツバツツジ、ナツハゼ、バイカウツギ、カンツバキ、ヒサカキ

シタクサ ベニシダ、セキショウ、ヤブコウジ、フッキソウ、タマスダレ、

修景物、垣根など 黒穂垣、四目垣、枝折戸、蹲(自然石、見立て物)、玉手燈籠